退職は自己都合退職と自然退職
退職は従業員が自らの意志によって成立する「自己都合退職」とある事由に該当した際に自動的に退職が成立する「自然退職」に分類される。
自然退職とその種類について
死亡退職:従業員が死亡した際に自動的に退職。
定年退職:会社が定めた退職の年齢に達した時に退職。※高齢者雇用確保措置があるので注意が必要
休職期間満了後の退職:私傷病による休職制度で、休職期間満了後に復帰出来ない際に退職。
雇用期間満了による退職:有期雇用社員が雇用期間満了時に退職。
長期欠勤後の退職:無断欠勤など会社が定めた期間を超えた場合に退職。(一般的に1ヶ月)
※死亡時の退職以外は制度化しておくことが重要。
退職の手順
退職届けについて
自己都合退職では「退職届」の提出をしてもらい、それを受理する。
※解雇ではないという証明にもなる。
自然退職では、その事由に該当した際に自然に退職になるので、基本的には退職届は不要。
退職のタイミング
民法上は退職希望日の2週間前までに退職の申し出をすればよいことになっているが、
申し出期限を30日前にしている企業が多い。
退職の手続きについて
退職後の競業避止と機密保持
競業避止が認められる条件
憲法では職業選択の自由を定めているので、原則競業避止の定めは無効になる。
ただし、下記のような場合には競業避止が認められるケースもある。
・あらかじめ就業規則に明記
・誓約書で同意を得ている
・代償措置をしている(特別手当や退職金の上積み)
・限定的に禁止している(就業規則や誓約書等で)
※就業地域、業種や職種、期間、地位
機密保持の3つの方法
①誓約書へのサイン
②勉強会などを実施
③就業規則で明記
普通解雇、整理解雇、懲戒解雇
普通解雇の手順について
普通解雇:勤務の怠慢、職務能力の不良、労務の提供を十分に出来ないなど。
①就業規則に解雇事由を明記する
・遅刻や欠勤が多く勤務態度が著しく不良で改善の見込みがない
・精神的、身体的に働ける状態ではない
・職務能力が著しく不足していて向上の見込みがない
②解雇回避努力
・どの解雇事由に当てはまるのか本人に伝える
・改善案を考える
・指導や教育を実施する
・解雇事由にあてはまる行為の記録、教育指導などの記録を行う。
・本人の能力や適性に応じて、研修や配置換えを行う。
③退職勧奨
・これまでの記録を見せて自主的に退職するように促す。
↓ ↓
合意した場合:退職届を提出してもらう。
合意しない場合:解雇予告手続きに沿って解雇を行う。
整理解雇の手順について
整理解雇:経営悪化などで事業を縮小しなければならない時に行う。
整理解雇を行うには以下の条件を満たす必要がある。
※就業規則に明記が必要
①経営上の必要性があるか
人員整理が必要な状況、または予測できる状況なのか。
②解雇回避努力をしたか
役員給与の引き下げや経費削減の努力、希望退職者を募るなど。
③人選に合理性はあるか
整理解雇の対象になる人員の基準に合意性はあるか。
④手続きは妥当か
対象となる従業員(労働組合)に、誠意をもって説明、協議しているか。
※再就職の支援をしているかなど退職後も誠意をもって対応していくことがトラブル防止になる。
近年は正社員と非正規社員の仕事の内容や責任が変わらないケースが増えているため、
単純に雇用形態で対象者を人選するのは危険。
懲戒解雇の手順について
懲戒解雇:重大な企業秩序の違反や反社会的行為をした時に行われる懲戒処分の中で最も重い処分。
懲戒解雇の場合、労働基準監督署から「除外認定」を受けると解雇予告を支払う必要はない。
①就業規則を整備
懲戒事由の中に懲戒解雇事由を定める。
例)
経歴詐称、横領・着服、非違(ひい)行為、無断欠勤(●日以上)、重大な服務規律違反
職場内での暴力行為、会社の名誉棄損、機密情報の漏洩
①解雇事由の中に懲戒解雇事由を入れておく
文例)
就業規則の懲戒事由に定める論旨解雇、懲戒解雇事由に該当する事実があったと認められるとき。
②懲戒解雇事由にあたる行為があった場合は適正な手続きを踏む
・事実確認を行い、本人の言い分も聞く。
・定められた懲戒処分の手続きがあればそれに沿って行う。
・行為の程度や回数、会社に及ぼす損害程度から、懲戒解雇が合理的か審議する。
・懲戒処分のルールに反しないか確認する。
↓ ↓
「論旨解雇」退職届を提出してもらう。
※本人の反省が重く、論旨解雇に同意した場合
「解雇」解雇手続きを行う。
解雇手続きと解雇制限
解雇予告手続き
従業員を解雇するときは、解雇を通知する。
その際、遅くとも30日前までには行わなければならない。30日に足ら場合は、足らない日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う。
解雇制限
(労働基準法で解雇が出来ない期間)
・業務上の災害(労災)による病気やけがで休業している期間とその後30日間。※①
・産前産後休業の期間とその後30日間。
労働基準監督署から、除外認定を受けた時は解雇制限がなくなる。
※①
治療開始から3年たっても治療が終わらない場合、傷病補償年金を受け取ることになったり、
会社が1200日分の打ち切り補償を支払った場合は解雇することが出来る。
傷病補償年金は重度の障害のみが対象になるが、障害補償年金や障害補償一時金は受け取れる可能性があり、これらは治療が終わった後に支払われるものになるので、治療のための休業期間とその後30日間が経過し解雇禁止の対象からは外れる。
解雇に関わるトラブル
解雇に関わるトラブルを避ける方法
コミュニケーションを図りながら納得してもらう
・どの行為が解雇事由にあたるか丁寧に伝える。
・いきなり懲戒解雇にするのではなく、軽い処分から徐々に重くしていく。
・どこが適していないか、このままでは解雇せざるえないなど背景や理由をしっかり伝える。
・客観的なデータなどで問題点を伝える。
・改善策を考え、指導を行いその後の評価や結果を伝える。
・従業員の話も聞きしっかりと話し合う。
解雇せざる得ない場合でも退職勧奨を行う
・「解雇」よりも「退職」の方がイメージが良いことを伝える。
・退職金の上乗せな合意しやすい条件を伝える。
・合意をもらったら「退職届」を提出してもらい証拠を残す。
解雇の場合は法定の手続きを行う
・解雇予告通知書を渡す。
・解雇制限期間での解雇は行わない。
・解雇手続きを踏む。
※トラブルになった時に備え、従業員の記録は改善策、評価などは全て記録で残す。
退職証明書と解雇理由証明書
退職証明書
退職後2年以内に請求された場合は、何度でも一度に何枚でも応じる義務がる。
記載事項:使用期間、業務の種類、地位(役職)、賃金、退職理由
※このうち従業員が希望した事項を記載目的:失業給付、国民健康保険の手続き。(資格喪失証明書や離職票がすぐに準備出来ない代用)
解雇理由証明書
たいていの場合は、解雇の不当性を争うために請求される。2-3日以内に交付・
記載事項:記載事項:使用期間、業務の種類、地位(役職)、賃金、退職理由
※退職理由が解雇の場合は解雇理由が必要。(就業規則●条第●項の解雇事由にあたると具体的に記載)
※解雇証明書の交付時期は解雇予告日~解雇日までの間。
解雇後に請求された場合は、退職証明書を発行することになる。
退職時の雇用保険と社会保険の手続き
退職時の雇用保険手続きについて
(再就職先が決まっているケース)
・雇用保険被保険者証を従業員に返却
・被保険者資格喪失の手続き ※退職翌日から10日以内
(退職してから仕事を探すケース) ※上記に追加
・雇用保険被保険者離職証明書の提出(離職票希望者に対して)※退職翌日から10日以内
退職時の社会保険手続きについて
(再就職先が決まっているケース)
・健康保険証を返却してもらう
・被保険者資格喪失を年金事務所に提出
(再就職しない社保の加入要件を満たしていないケース) ※上記に追加
・社会保険資格喪失証明書を会社が作成し従業員に渡す
個人での加入について
健康保険の資格喪失前日まで継続して2ヶ月以上被保険者期間がある場合、退職後20日以内に
協会けんぽや健康保険組合で手続きをする場合、個人で2年間加入することが出来る。
失業給付と離職理由
離職理由で給付が異なる
(自己都合退職)
再就職希望者や自身の都合での退職、懲戒解雇などがこれにあたる。
待機期間:7日間
給付制限:3ヶ月
受給期間:最大150日
給付金額:離職日以前6ヶ月間の賃金日額45%~80%×給付日数
条件:勤続年数1年以上
(会社都合退職)
会社の倒産や事業所の廃止、解雇や退職勧奨など会社が原因で退職せざる得ない場合。
特定受給資格者と呼ばれる。
待機期間:7日間
給付制限:なし
受給期間:最大330日
給付金額:離職日以前6ヶ月間の賃金日額45%~80%×給付日数
条件:勤続年数6ヶ月
※有期雇用の満了や結婚や保育など辞めざる得ない正当な理由の場合は
「特定理由離職者」と呼ばれ、特定受給資格者に準じた給付を受けられる。
退職した従業員に関する書類
(法定の保管期限)
健康保険・厚生年金に関する書類:完結日から2年
労災の災害補償に関する書類:災害補償の終了日から3年
労働者名簿など雇い入れ・解雇・退職に関する書類:退職や解雇日から3年
賃金台帳、タイムカードなど賃金に関するもの:最終記入日または最終出勤日から3年
雇用保険の被保険者に関する書類:完結日から4年
身元保証書、誓約書、健康診断の個人票など:作成日から5年
(主な権利の請求書)
未払い分の請求権:2年
退職金の請求:5年
災害補償その他の請求権:2年
労災の安全配慮義務違反による損害賠償請求:発生時から10年