社会保険の仕組みと内容
社会保険制度の概要
社会保険とは
社会保険は社会保険制度における柱の一つとして、国民の健全な生活を支える上で大きな役割を果たしている。国民が安心して生活を営み仕事に専念できるのは社会保険制度が健全に機能しているから。
第1号被保険者:自営業や20歳以上の学生、会社を退職して60歳未満
第2号被保険者:会社員、公務員
第3号被保険者:2号被保険者に扶養されている
国民皆保険・国民皆年金
【社会保険は4つに分かれる】
①健康保険:私的な怪我や病気、出産、死亡など
②厚生年金:老齢、障害、死亡
③労災保険:仕事中や通勤中の怪我や病気など ※業務遂行性、業務起因性
※労基署判断の為、不支給の場合は健康保険の対象になる
④雇用保険:失業した時
手続き窓口と保険給付
社会保険における保険給付
①怪我や病気②休業③障害④死亡⑤老齢⑥要介護状態⑦出産⑧失業⑨雇用継続(高年齢・育児・介護)
健康保険
管轄:健康保険組合、協会けんぽ
保険給付:①怪我や病気②休業④死亡⑦出産
厚生年金
管轄:年金事務所
保険給付:③障害④死亡⑤老齢
雇用保険
管轄:ハローワーク
保険給付:⑧失業⑨雇用継続
労災保険
管轄:労働基準監督署
保険給付:①怪我や病気②休業③障害④死亡⑥要介護状態
保険料の徴収事務
【毎月の徴収事務】
毎月の給料から雇用保険料、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料を控除。
※雇用保険は支払う度に控除
例)4月1日入社、給料20日〆 25日支給
4月:4/25支給分控除ー雇用保険料
5月:5/25支給分控除ー雇用保険料、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料
※6月以降は5月と同様労災保険料は全額会社負担。
労災保険率:3年に一度改定される。事業によって利率が異なる。
※危険度が高い事業は高い
【雇用保険料の徴収事務】
①雇用保険料は給与、賞与を支払うつど、総支給額に保険料率を掛けて計算する。(交通費や残業も含めての総額)
②高年齢者の保険料徴収(令和2年4月1日改定)
令和2年4月1日から64歳以上であっても保険料を徴収することになった。
③保険料の納付は、年1回又は年3回の分割。
【雇用保険の年度について】
労働保険の保険料は毎年4/1-翌年3/31までに支払われる給料及び賞与の総額に、その事業ごとに定められた保険料を掛けて算定することになっている。労働保険では保険年度の当初に概算で保険料を納付しておき、保険年度末に精算する方法を取っている。そのため、会社は毎年6/1-7/10までの間に新年度の概算保険料を納付するための申告・納付と前年度の保険料を精算するための確定保険料の申告・納付の手続きが必要になる。
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の徴収事務
①標準報酬月額に保険料率を掛けて計算するので、等級が変わらない限り毎月同じ金額を控除する。
②資格を取得した月の分から保険料を控除する。徴収するかしないかで決まる。日割りはない。
月初入社でも月末入社でもその月の保険料は翌月支払われる給料から控除する。
③退職の場合は、退職が月末でない限りその月の分の保険料は控除しない。
12/31の場合は翌月から徴収、12/28の場合は徴収しない。
④同一月に入社・退職した場合にはその月の保険料は控除する。
退職者が再就職して厚生年金保険の資格を取得したり国民年金の被保険者の資格を取得した場合には、
再就職先での厚生年金保険料や国民年金のみを納付することとなり、先に資格喪失した厚生年金保険料の納付は不要になる。
ただし、年金事務所が後日確認するため、会社は一旦厚生年金保険料を本人から徴収し、年金事務所から厚生年金保険料の返還があり次第、会社から本人に返還することになる。
※健康保険料、介護保険料は従来通り納付する(本人は二重で支払うことになる)
⑤社員が病気欠勤などで、その月出勤が一日もなく給与支払いがない場合でも、被保険者である限り健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は発生(控除)する。
会社が申請することにより産前産後休業期間及び育児休業期間の保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)が全額(会社・本人)免除される。
(免除される期間)
育児休業休業開始日の属する月から育児休業が終了する日の翌日が属する月の前月まで。
育児休業終了日が8月30日:7月分までが免除
育児休業終了日が8月31日:8月までが免除
※土日が絡んでいても関係なし
労災保険のポイント
労災保険制度の概要
労災保険の適用者
労働の対価として賃金を受ける者全てが適用者になる。
(労災保険が適用されない者)
代表権・業務執行権を有する取締役、請負、外注、委任、自営業者(国民健康保険で賄割れる)。
業務災害・通勤災害の基準
①業務災害
社員の業務上の負傷、疾病、障害または死亡。
業務が有力な原因となっており、業務と疾病の間に一定の因果関係があることをいう。
②業務遂行性と業務起因性
労災かどうかを判断する基準で、原則2つの基準を満たす必要がある
・労働契約に基づいて事業主の支配管理下に置かれた状態である
・疾病等が業務を原因として発生したもの(業務と疾病との間に因果関係がある)。
業務中の災害
業務遂行性がはっきりしており業務起因性が認められる。
(疾病等の原因が、私的だったり天災の場合は健康保険の領域になる)
休憩時間中の災害など
休憩時間等の私的な行為と業務との関係は見られないので業務起因性は認められない。
(事業場内の設備や施設の欠陥等による災害は認められる)
出張中の災害など
業務起因性が認められる。
(原則として事業場を出てから戻るまでの全家庭について業務遂行性が認められる)
③通勤災害
労災保険では通勤途中での災害も補償の対象になる。
ただし通勤と災害の間に因果関係がある場合にのみ認められることに注意が必要。
【通勤災害と認められる通勤の定義】
●労働者が就業に関し、住居と就業場所との間を、合理的な経路及び方法により往復すること。
●通勤時に逸脱・中断をしていないこと(日常生活上必要な行為をやむを得ない最小限のものは除く)
【語句について】
住居:就業の拠点場所、自宅単身赴任先の住居、臨時に宿泊するホテルなども該当。
合理的な経路:通勤に利用する経路。複数でも合理的とされる(会社への申告は不要)。
合理的な方法:無免許や飲酒運転など除き、徒歩・自転車・自動車・電車等全て合理的と認められる。
逸脱:寄り道など通勤途中で経路から外れる場合、逸脱後の通勤災害は全て認められない。
中断:喫茶店に入るなど別の行為をすることを言い、中断後の通勤災害は全て認められない。
日常生活上必要な行為:日用品購入や通院などは、元の経路に戻った後の通勤災害は認められる。
会社の責任
災害補償は会社の責任
仕事(業務災害)が有力な原因になって社員が負傷したり疾病にかかったり、死亡したりした時は会社は休業補償や、遺族補償などの補償を行わなければならないこととされている。
・補償は無過失責任
・補償額は責任、程度に関わらず。所定の全額
・補償しなければ処罰
休業補償であれば8割が労災から出るので後の2割を会社が請求される可能性もある。
労災保険の主な給付内容
①療養(補償)給付
(療養の給付)
どんな時か:労災病院や労災指定医療機関で治療を受けるとき
給付内容:現物給付(治療をしてもらう)
手続き書類:療養給付たる療養の給付請求書
提出先:労災指定病院
受給期間:疾病が治癒するか、死亡して給付の必要がなくなるまで
(療養の費用)
どんな時か:労災病院や労災指定医療機関以外で治療を受けるとき
給付内容:立て替え払いとして支払った治療費の全額を現金給付
手続き書類:療養給付たる療養の給付請求書(医師の証明があるもの)
提出先:会社管轄の労働基準監督署
受給期間:疾病が治癒するか、死亡して給付の必要がなくなるまで
※通勤災害に関しては会社が補償する必要はない
②休業(補償)給付
健康保険の傷病手当金よりも労災保険の方が金額・受給期間共に有利になっている。
傷病手当金:60%で1年半。
休業補償:80%で完治するまで。
給付条件:業務災害、通勤災害による疾病療養のために労働ができず給料を受けれない時
休業補償給付:休業4日目から休業1日目につき給付基礎日額の60%相当額
休業特別支給金:休業4日目から休業1日目につき給付基礎日額の20%相当額
手続書類:休業補償給付支給請求書(医師の証明があるもの)
提出先:会社管轄の労働基準監督署
受給期間:療養のため会社を休み賃金を受けれなくなった第4日目から支給される
脳・心臓疾患(過労死)の認定要件
認定基準と認定要件
【発症した脳や心臓の疾患が労災と認定される2つの前提】
・基礎疾患が日常生活の中で徐々に悪くなるのを超えて著しく悪くなっている
・著しく悪くなった原因が仕事によるものである
【脳・心臓疾患の認定対象とする疾病は次の8つ】
脳血管疾患:脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症
虚血性心疾患:心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤
※全体の申請中認定されるのは31-32%
異常な出来事、短時間、長時間の過重業務
短時間の過重業務
発症前の概ね1週間について客観的かつ総合的に判断される。
労働時間、深夜勤務、不規則な勤務など
長時間の過重業務
発症前の概ね6ヶ月間について、業務量や内容、作業環境などを考慮して客観的かつ総合的に判断。
発症前1ヶ月間に100時間、または2ヶ月から6ヶ月に渡って1ヶ月あたり概ね80時間を超える残業。
1ヶ月あたり45時間を超えての残業が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まる。
異常な出来事
発症直前から前日までに遭遇した出来事により身体的、精神的負荷が著しいかという観点から客観的かつ総合的に判断される。
精神的負荷:重大な人身事や重大事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた場合など
身体的負荷:事故の発生に伴い救助活動や事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた場合など
作業環境の変化:温度差のある場所への頻繁な出入り、暑熱な作業で水分補給が阻害されるな
精神障害の認定要件
①認定基準の対象(うつ病などの気分障害)となる精神障害を発病していること
②発病前の概ね6ヶ月間に、業務に夜強い心理的負荷が認められること
※残業、パワハラ、セクハラなど。業務時間に関しては脳・心臓疾患などに比べてなりにくいとされている(時間が長め)。
③業務以外の心理的負荷や個体側要因による発病は認められない
※業務以外の心理的負荷評価表を参照。Ⅲは労災として認められにくい。
※全体の申請中認定されるのは30%ほど